9月12日、ネイチャーガイドとして全国的に活躍する皆さんと一緒に、栃木県足利市にある
石尊山(標高486m)まで羽を伸ばしてきました。電車を乗り継ぎ、片道3時間半の長旅です。
この旅のお目当ては、北関東と東海地方にのみ隔離分布するフモトミズナラという希少な
樹木の自生地を訪ねることでした。分類上の所在が二転三転した謎多き植物でもあります。
最終的には、2022年に遺伝的・形態的な見地から大陸系のモンゴリナラという樹木の変種で
あると結論付けられ、Quercus mongolica var. mongolicoidesの学名が提案されています。
“フモト”の名前にまんまと騙され、急勾配の登山道を息を切らして登り切った痩せ尾根の
周辺で、ようやく自生のフモトミズナラと対面することができました。なるほど、とても
大きな葉です。カシワと見間違うほどのサイズ感ですが、カシワの葉には毛があります。
群落の足元にはどんぐりも点々と落ちており、その特徴を確認することができました。
葉は同じ木でもかなり多型で、本当に同じ木なのかと疑ってしまうほどだったので、もしも
単体で葉を見せられても、それがフモトミズナラだと言い切れる自信はあまりありません。
そして、この標高480mのフモトミズナラにもナラ枯れの被害が出ていることに驚きました。
目的を果たしたあとは周囲の植生にも注目し、乾燥した岩場に生える植物を記録しました。
順に、マンサク、ナガバノコウヤボウキ、センブリ、ウラジロノキ、オクモミジハグマ、
クモキリソウです。このほか、樹木ではチョウジザクラ、ヤマザクラ×カスミザクラ、
ヤシャブシsp.、ネジキなど、草本ではフモトスミレ、アキノキリンソウ、ウチワゴケ、
オオカナワラビ、ケヤブハギなどを観察しました。石尊信仰の山なので、山麓付近の
沢沿いはしばらく針葉樹林帯(植林地)となっており、中腹から上部にフモトミズナラを
含む広葉樹林帯が広がっています。植生の変化を楽しめ、植物的には面白い低山でした。
今回は花が少なめでしたが、アカヤシオが咲く時期など、また再訪してみたいと思います。
普段、あまり山登りをしない私にとっては、この程度の登山でも少々ハードに感じました。
それでも著名な方々とのフィールドワークは大変刺激的で、道中で交わす会話の全てが
学びとなり、また、皆さんの植物に対する情熱が伝わってきて、疲れを忘れるほどでした。
平地や丘陵地、それも南多摩にこだわってフィールドワークを続けてきた私ですが、やはり
たまには県をまたぎ、低山地の自然にも触れること、そして、アウトプットだけでなく、
こうしたインプットの機会を定期的に作ることはとても大事だと改めて感じた一日でした。
※3枚目の写真は登山口近くの休耕田に群生していたナンゴクヒメミソハギの花です。