10月3日、昨年度から行っている民有緑地の自然環境調査、後半戦がスタートしました。
秋季の調査では、春には見られなかった動植物やまだ成長段階であった植物の開花した姿を
見ることができるので、同じ場所でもまた違った楽しみがあります。この日の調査地は、
市内北東部の石川町に位置する雑木林で、林床が明るく植物相も非常に豊かな場所です。
こちらの写真は雑木林の林縁を撮影したものですが、この中に秋の七草が3種類、写って
います。さて、どれかわかりますか?・・正解は、ススキ、ハギ(ヤマハギ)、クズです。
“食を楽しむ”春の七草に対して、秋の七草は“見て楽しむ”植物が選ばれています。
里山にこれらが咲くと秋を感じる、そんな草花たちです。しかしながら、先の3種類以外の
キキョウ、フジバカマ、オミナエシ、ナデシコ(カワラナデシコ)はいずれも野生の個体を
見ることが大変難しい存在になりつつあります。茅場などの自然草地が激減し、耕作放棄や
外来種の侵入などがそれを後押しする形で、かつて普通に見られた草原性の植物は軒並み
姿を消してしまったのです。東京都ではどれも絶滅危惧種にリストアップされています。
ススキやハギはまだ身近な存在ですが、いつまでもこうした光景が見られますように・・
春季の調査で、この雑木林を特徴付ける植物としてマルバヌスビトハギの群落を確認して
いました。今回、その開花・結実が見られることを期待していたのですが、予想どおり、
各所で花や実を付けていました。ヌスビトハギとよく似ていますが、葉はタンキリマメの
ような丸っこくて先端近くが幅広になる独特な形をしています。花柄が長いことや、全体に
毛が目立つことなども区別のポイントです。南多摩での分布は極めて局地的で、ありそうで
なかなか無い植物の一つです。ひっつき虫として運ばれる果実によって、あちこちに分布を
広げていきそうなものなのに、なぜ生育地が限定されているのか、不思議でもあります。
分類上はマルバヌスビトハギが基本種で、身近なヌスビトハギのほうが亜種との扱いです。
もう一つ期待に応えてくれたのはオケラです。花盛りの時期を見逃しがちな種類なので、
この日、調査に訪れて大正解でした!林床の手入れが行われなくなると衰退する植物です。
その他、確認できた主な植物をご紹介。順に、ジョウシュウカモメヅル、オオカモメヅル、
シラヤマギク、ヤマホトトギス、ツリガネニンジン、ノハラアザミ(クルマアザミ型)、
アブラススキ、トダシバ、ノガリヤスです。カモメヅル揃い踏みなんて素敵ですよね!
多種多様な里山植物の現存を確かめることができて、とても有意義な調査となった反面、
残念な出来事もありました。この斜面樹林の川向こうには一面の畑が広がっており、
そこに希少なコイヌガラシやフタバムグラが数えきれないほど生えているのを確認して
いたのですが、この日、立ち寄ってみて愕然としました。重機が入って大規模な工事が
行われている真っ只中であり、畑はすでにほとんどが整地され、先の植物たちもすでに姿を
消していたのです。民有地なのでどうにもできないのがもどかしい限りですが、こうやって
あっけなく絶滅してしまうのが農耕地の環境に強く依存してきた雑草の運命でもあります。
冒頭の秋の七草の話とも通じることですが、人と共に生きてきた植物こそ、保全が難しいの
です。私たちは、植物のためだけにライフスタイルを変えることはもはやできませんから、
現実を受け止めつつ、どうすれば彼らと共存していけるのか再考が必要かもしれません。